2011年4月7日木曜日

東北地方の「復興」は、TPP受け入れとナショナリズム強化に向かうのでしょうか?


「3・11に砕かれた近代の成長信仰」「近代国家でこれだけの規模の災害と事故に襲われた例はありません」(川北稔 朝日新聞 4月7日)とあるように、日本は津波による、まさに言葉通りの未曾有な「災害と事故」に遭ったことになります。私は戦後日本の平和の実態は何であったのかを根底的に検証・総括しなければならないと考えてきたので、川北氏の朝日のインタビューは興味深く読みました。


中野剛志『TPP亡国論』(集英社)はTPP(環太平洋経済連携協定)反対に絶対的な自信をもって、政府財界やマスコミがTPPに賛成する根拠が希薄で「戦略を考える思考回路」にブレーカがかかっているようだ、それは実はアメリカに追随し「自主防衛」する選択肢を放棄しているからだと説きます。

昨年管直人が横浜で開催されたAPECで唐突に「平成の開国」宣言した背景を歴史観から、経済政策に至るまで事細かな事例を挙げ、徹底的な批判をします。彼は経済産業省から京都大学に出向している人で、経済ナショナリズムの専門家です。『成長なき時代の「国家」構想するー経済政策のオルタナティブ・ヴィジョン』の編者で、大きな影響力を持ち始めている人物です。(http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/01/tpp_5.html)。

日本のデフレが続く理由、それがどうして問題なのか、その克服のためには農業を犠牲にして輸出振興を図ろうとするTPPは全く逆効果で、日本のGDPの二割しかない貿易ではなく内需の拡大によってのみ経済の復興は可能になると見ます。貿易で利益を上げればあげるほど、デフレは克服できないメカニズムをわかりやすく、説得力ある論理で展開します。

ところどころ私の知らない事実を挙げ(例えば、日本の2000を超えるダムを全部集めてもアメリカのフ―バダムに及ばず、日本の農産物の種子の8割はアメリカの企業のものだとか)、日本は自立できない状態で、アメリカや中国にはこのままではいざというときには、対抗できない、「戦略」とはまさに国家間の弱肉強食の闘いに勝つためのものだと言うのです。

TPPは加盟国の内、日米はGDPから見るとその9割を占め、実質的には日米の関税をなくす協定で、それはアメリカの農産物の輸出を増やすためのもので、世界不況を前にして欧米は勿論、アジアへの貿易を増やすことに寄与しないばかりか、貿易黒字のもつ問題点から説き、アメリカの日本の支配力を強めるという見かたです。

歴史観では、江戸幕府は「避戦・開国」であったが、明治維新は「攘夷・開国」であった、「平成の開国」は幕末の「避戦・開国」であるとして福沢諭吉の「開鎖論」を挙げて、そこから「自主防衛」に至るというのが彼の主張の根幹です。この議論が日本のタブーだと言うのです。小沢をはじめこのようなことを言うネオ・リベ派が増えて来ています。

中野がいう「自主防衛」は尖閣諸島の中国やロシアの北方領土訪問に強気で対応できなかった日本政府の弱腰外交政策への批判ともつながり、それは北朝鮮への強気な対応ともつながるでしょう。彼は「第一の開国が、まだ終わっていない」と本の最後で記します。即ち、明治以来の「攘夷・開国」は未だ実現せずということでしょう。

これは大変危険な考え方だと思います。戦争放棄した国是をどのように考えているのでしょうか。日本はあくまでも「避戦・開国」を宣言したのではなかったのでしょうか。彼の意見は、リアリステイックに現実を見るということから、他国に挑戦的で、偏狭なナショナリズムに大きく寄与する危険性があります。

しかしながら、デフレを克服する彼の経済理論に関しては学ぶことが多かったのは事実です。彼は現実の不況は民間企業の努力ではなく、政府による財政投資(公共事業)の増大によってデフレの克服が可能だと強調するのですが、これが東北地方の「復興」が求められている日本の状況において有効な理論になるのか、私は注目しています。

先にあげたダムの件も、水が重要な問題になってきているという認識と共に、結局彼はダムの建設を促すような記述をします。日本社会の内部矛盾は、デフレから脱却して経済が上向きになってから議論をすればいいではないか言わんばかりです。

ここで戦後日本の根底的な見直しを求め、住民主権による地方自治を唱える私とは決定的に異なります。私は反原発(反環境破壊)=平和希求=差別のない社会が、戦後日本で実現されなかったと捉えます。これを現実主義者と理想主義者との違いと言わせない、具体的な政策論にまで行きつく問題だと私は認識しました。現実は中野の熱弁とは違う方向に、即ち、未曾有な「災害と事故」はアメリカ農産物の受け入れにつながるTPP協定締結と向かいつつ、同時に反米ではないかたちで歪なナショナリズムの強化に向かうのでしょうか。(8日の日経で、TPP参加は先送り、と報道)

彼の経済政策が全て「自主防衛」に結び付かないと成り立たないのか(TPP反対ということで)、或いはTPP賛成の議論に打ち勝つための言い方なのか、私にはよくわかりません。これからも注目すべき人物ではあると思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿